モール

 “見えてきたのは、自分が生きている場所だった。モール周辺には新しい住宅の建設が行われている。ロードサイドには家電量販店や外食のチェーン店が立ち並び、流通のトラックが行き交う。こういう場所に僕たちはいるのだ。それまでぼんやりと個別に認識していたものたちが、モールを介してつながるようだった。
写真学生の頃から長年使用してきた中判レンジファインダーのカメラが、このテーマに適していると確信していた。脚を反転させ折り畳んだ三脚を携えて、歩き続けた。それは、ポートレートからランドスケープへの拡張だっただろうか。”
―――― 小野啓

「サイダーのように言葉が湧き上がる」というモールが舞台のアニメ映画を作ったのだが、似たような外観、内観だと思っていたそれにも個性があるのだと気づいた。コンセプトは同じでも、実はその土地に根差した作りになっていることが多い。で、これはモールを凝視するように観察しないと気づけない。アニメ作りは設定作りとも言えて、特に舞台となる美術設定を考える際は普段見落としがちな細部にも目を配る。だからモールごとの個性にも気づけたのだ。
今作にも同じような観察眼を感じる。見落としがちな細部を小野さんのアングルで切り取ると、何気ない場所でも誰かにとっての特別なのだ、とあらためて気づかされる。遠くから見れば塊感のある巨大で無機質な箱だが、その内部にはたくさんの人が行き交っていて、有機的な幾千通りの人生が確実に存在する。カメラの置き所でこれほど表情を変える被写体も珍しいのでは、とも思う。
写真集として見るモールも、さまざまな表情を見せてくれて心が躍る。そしてアニメ作りのため何百枚とモールの写真を撮った自分としては、個人的なシンパシーを感じてしまうのだ。
―――― イシグロキョウヘイアニメーション監督、演出家

写真展

『モール』

会期:2022年9月27日(火)~10月9日(日)
会場:TOTEM POLE PHOTO GALLERY
〒160-0004 東京都新宿区四谷四丁目22 第二富士川ビル1F
Tel/Fax:03-3341-9341
URL:https://tppg.jp
※会場で写真集をご購入の方へ特典ポスターをプレゼントします。

【トークイベント】
小野啓 × 鳥原学(写真評論家)
2022年10月1日(土)19:00~
イベントの詳細・お申込みはこちらをご確認ください。
https://forms.gle/qAbd3GeWAi6fqirb6

写真集

『モール』

アートディレクション:グルーヴィジョンズ
寄稿:速水健朗「ショッピングモールは、人生にとって必要なものではない」
サイズ:W226mm × H182mm | 116ページ |上製本
定価:3,000円 +税
発行:赤々舎
ISBN: 978-4-86541-139-3

写真展

小野啓写真集『モール』出版記念写真展
会期:2022年2月18日(金)~3月2日(水)
会場:BOOKMARC|東京都渋谷区神宮前4-26-14|tel.03-5412-0351
※会場で写真集『モール』をご購入の方に先着で、
B1判ポスターをプレゼント致します(数量限定)。

小野啓(おの けい)
1977年京都府生まれ。2001年、立命館大学経済学部卒業。2003年、ビジュアルアーツ専門学校・大阪写真学科卒業。2006年、第26 回写真『ひとつぼ展』入選、ビジュアルアーツフォトアワード大賞受賞。2014年、第26回「写真の会」賞受賞。写真集に『青い光』(青幻舎)、『NEW TEXT』(赤々舎)、『男子部屋の記録』(玄光社)など。 www.onokei.jp